換気に関する所感

この記事では新型コロナウイルスの世界規模の感染(パンデミック)を通じて当事務所で感じていることを書いております。最新の情報等の確認については内閣官房庁ホームページにてご確認ください。またここでは主に「住宅」を造ることを考えている方に向けて記事を書いています。建築の設計は「意匠(あるいは建築)」、「構造」、「設備」、「電気」、「外構」といった専門分野があります。大型のプロジェクトではすべての専門の担当者をつけて設計することもありますが、住宅計画では案件が小さく、設計報酬とのバランスにより専門家を配備できない場合が多いです(もちろん依頼主のご希望と見合った報酬がご用意あれば可能です)。そこで、住宅購入を考えられる方、あるいはこれから初めて設計をする若手設計者へ向けて記事を書きました。基本的な情報なども含みますので、ご興味のある方のみお読みください。この記事では赤文字のみ読むことで概要を把握することができます

1-給気への低意識

「換気」は「空気を入れ替える」ことです。住宅であればトイレやお風呂、キッチンの換気扇から空気を外に出し、汚れた空気を排出(排気)することで室内空気の清浄度が保たれるということを多くの方が体感されています。一方で空気の取り入れ口について考えられている方はそう多くはないでしょう。空気を排気するということは、室内の空気は減り、新たに空気を取り込む(給気)ことになります。木造を主体とするかつての住宅では、壁と柱の間に長年の生活で生じたひび割れや隙間から外気が入り込み(いわゆる隙間風です)、給気が自然と行われていました。一方で効率的な温熱環境を追求し、「高気密」「高断熱」が謳われる現在の住宅では、外部からの無秩序な空気の侵入を防ぐため給気口等の設置が当たり前となっています
また、2003年以降、シックハウス対策等のために「24時間換気」と呼ばれる換気設備の設置運用が義務づけられ、「機械による排気」が当たり前となっています。これらの背景から、昨今の住宅には給気のための設備「給気口」が必ず設置されています。住宅用の給気口には蓋つきのものが多く、居住者はその蓋の開閉を任されていますが、開閉状態の確認をされたことのある方は実は少ないのだと感じています。コンセントに手を当てたときに空気の流れを感じる場合は給気と排気のバランスが崩れていると予想されます。給気口を開いても改善されない場合は窓などを開けてみましょう。それにより改善される場合 は給気口を増やすか、換気ルートを確認することを推奨します。

​2-窓を開ける換気と機械の換気

建築基準法第20条二項に居室に必要な換気上有効な開口部(窓や扉など)は床面積の1/20以上と指定されています。その開口面積が不足場合、建築基準法施行令20条の2による換気システム(自然換気設備、機械換気設備、中央管理方式の空気調和設備、他大臣認定を取得した性能のもののいずれか)が必要となります。新型コロナウイルスの感染防止を目的とした窓を開ける換気とは、この法令上認可された開口部を開放する「自然換気+機械換気の合計換気量(回数)」の考え方となります。換気回数とは「1時間あたり、室内の空気量が何度、新しい空気に入れ替わる」か表します。
新鮮な空気と汚れた空気は一定のバランスになるように混ざり合います(風や温度などによる圧力差により混ざりやすさが変わります)。部屋の異なる壁面に窓や扉を設けて開放することで空気の通り道ができて換気の効率が高まります。窓を少し開けたときに「ピューッ」と風が勢いよく入ってくることを経験したことがあるでしょう。空気は勢いよく入ることで換気効率が高まります。給気側の窓を小さく開け、排気側の窓を大きく開けると早く室内の空気が換気されます。
新型コロナウイルス対策のため、「機械換気」について関心が高まっています。機械換気には第一種、第二種、第三種機械換気の3種類があります。第一種は給気と排気を両方機械制御、第二種は給気を機械制御、第三種は排気を機械制御する方式となります。それぞれに特徴があり、優劣はなく、適切な計画が重要となります。

​3-日常時の最小限換気、感染対策時の最小限換気、感染予防の最小限換気について

日常時
成人男性一人が静かに座っているときのCO2排出量に基づき、一般の住宅では20㎥/人・hの換気を推奨されています。リビングルーム(およそ14畳・22.7㎡、天井高さ2.4m)で3人家族が読書程度の活動をしているとき、この54.5㎥の室内では1時間以内に空気が古く(汚染)なります。先程の20㎥/人・hから逆算すると、天井高さが標準的な2.4m程度のとき、一人あたりおよそ8.3㎡(5畳程度)の空間の空気を汚染させます。加えてペットや食事の存在、滞在者の運動量に応じて空気の劣化はより進みます。前述の「24時間換気」では室内の空気の半分を1時間あたりに換気(0.5回/h換気)することが要件となります。したがって、24時間換気が導入されている現在の住宅では、10畳(およそ16.2㎡)の部屋に一人が静かに滞在する際は空気汚染はあまり進行しないことになります(24時間換気の換気量:16.2㎡ x 2.4m x 0.5 =19.44㎥となり、成人男性のCO2発生量20㎥に満たない)
 
感染対策
新型コロナウイルス対策の換気を考慮する際、隔離病棟に準ずる空気感染対策に6.0回/h換気以上*が推奨されています。24時間換気のみに頼るとすると一人あたり120畳の空間が必要となります。現在の建築基準法に義務付けられている24時間換気では現実的な空気感染対策にはならないことがわかります。感染予防の換気量をすべて窓を開ける換気に頼るとすると、一度の換気で室内の空気が新鮮に入れ替わると仮定しても10分に一度窓を開けて数分間空気を入れ替えることになり、ほとんど常時窓を開けている状態に等しいと言えます。
感染予防
一方で、日常生活の空間の感染予防として厚生労働省は1時間あたり通常状態に加え2回以上、一回につき数分間、の換気**を推奨しています。2回の空気入れ替えに加え24時間換気により2.5回/hの換気が予防上の最低限の換気だと言えます。24時間換気のみに頼るとすると25畳の空間が必要となります。およそ40㎡となるため、広めの1LDK以上の家に一人で暮らしている場合は間取りによって24時間換気システムで感染予防対策が可能かもしれません。今後の設計プランに活かしてみたいと思います。
* 日本環境感染学会 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第2 版改訂版 (ver.2.1)
** 厚生労働省 「機密の悪い密閉空間」を改善するための換気方法

​4-換気扇を利用した換気量

感染対策が必要な場合、24時間換気システムや窓を開ける換気手法では十分な換気は現実的ではないことがわかりました。そこで住宅の一般設備である換気扇を利用した換気を検証してみます。一般的なトイレの換気扇(パイプファン)はおよそ40㎥/h(最新のものであれば49㎥/h前後)の排気量があります。一般的な天井高さ2.4mをもつ住宅の場合、2.7㎡相当面積分の6回/h換気ができます(40㎥÷2.4㎡÷6回換気=2.77㎡)。浴室用換気扇の排気量はおよそ100㎥から200㎥のラインアップがあり、130㎥程度の中間のものであれば9.0㎡相当面積分の6回/h換気ができます。キッチンフードの強モードの換気量はおよそ400~600㎥です。仮に500㎥程度のキッチンフードのとき、34.7㎡相当面積分の6回換気ができます。トイレ、風呂、キッチンフード(強)を同時に使用したとき、46.4㎡相当面積の6回/h換気が期待できます。間取り、換気計画やその他条件がそろえば、1LDK相当の住宅であれば換気扇をすべて活用することで感染対策に類する換気が可能でしょう。感染予防の換気量であれば111.4㎡相当面積の2.5回/h換気が可能となります。設計の重要性を再確認しました。

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